都民の命を守る砦として

NPO 法人医療制度研究会副理事長 本田宏さんに聞く
ではさっそく!都立病院独法化のニュースを聞いたとき、どう思った?
都民のいのちを守ってきた医療体制が守れるのか、心配になりました。
なるほど。心配といえば、いま聖路加や北里のような立派な大病院で、長時間労働や残業代未払いが問題になってるよね。
政府が医療費を長年抑制してきたツケですね。
日本は世界一の高齢化社会なんですが、GDPあたり医療費は先進国で最低クラスです。病院経営に余裕がないから、医師らの超過勤務分を全て支払うと赤字になってしまう。
製薬会社は儲かっているって聞いたけど…
日本の薬価は世界的に見ても高く設定されているため製薬会社の利益率はかなり高いです。
ただし日本の病院のほとんどはアップアップしています。その理由は日本で盲腸(急性虫垂炎)の手術をすると、病院が受け取る医療費はせいぜい30万円くらい。それが米国では、150万円くらいです。
このように手術料だけでなく、外来の診察料などが低く抑制されてきましたから、日本の病院の経営は苦しい。ところがこのような国際比較が国内では報道されないので、国民が実態を知ることが難しいのが残念です。
ムムム…お医者さん不足も深刻なんだよね。
日本の人口あたり医師数は先進国で最低です。
日本の医師数をOECD平均並みにするには、なんと10万人足りません(現在は約32万人)。
1983年に厚生省(当時)保険局長が「医療費亡国論」という論文を書きました。
「医療費が増えたら経済発展に支障が出る」と。その後に医学部の定員が削減されてしまいました。国民のいのちや暮らしより他の分野にお金をもっていきたい。今回の独法化にも、その臭いを感じます。
ってことは…やっぱり国の失策?
いや、医療費抑制という点ではむしろ大成功です。その結果、患者さん、国民、そして現場の医療関係者が苦しんでいるのです。
ムムム…むずかしい…
ところで、都立病院は「赤字」だから、というのが独法化の理由なんだよね?

精神医療、感染症、救急など。都立病院は採算がとりにくい部分を担っています。
それを民間病院が引き受けられるでしょうか。
だけど、民間に比べて公立は非効率になるんじゃないの?
ある私立の大学病院は毎年120人くらい看護師さんが辞めていると聞きました。確かにそこより都立は少し余裕があるのかもしれませんが、それと非効率とは違います。医療者が頻繁に入れ替わり、歯を食いしばって働かざるをえない病院に安心して入院できますか。過重労働は医療事故の温床にもなってしまいます。
じゃあ、独法化の狙いのひとつ「柔軟な経営」ってどういうこと?
経済学者の宇沢弘文さんの言葉を借りれば、医療は社会的共通資本(基盤)です。私が26年間働いた埼玉では、医師不足と低医療費の結果、病院の売却や移転問題も起きています。病院がつぶれていくと、アクセスだけでなく医療の質も低下します。
忘れてはならないのは、日本は医師、看護師が不足しているということです。過労死も起きるような現場で、「さらに働かせよう」という発想が間違っているのです。
フムフム。
では最後にズバリ!都立病院のあるべき姿とは?
「事件は現場で起きている!」という映画のセリフがありましたが、現場にいると見えてくるんですね。世界一高齢化社会の日本が、医師不足と低医療費のままで、安全で質の高い医療が提供できるわけがないと。患者さんのために、現場で起きていることを発信していく社会的責任が医療者にはあると考えています。都立病院が今後も、都民のいのちを守る砦として存続できることを祈っています。
本田さん、ありがとうございました!